WAR(Wins Above Replacement)についての私見

こんにちは。

 

中々ブログとして書く題材もなく、どうしたもんかなと思っていたのですが、数日前にネットの野球界隈を賑わせていた指標についての論争を見かけ、自分なりにいろいろ考えてみたアウトプットを出してみたいと思い更新することにしました。

 

■WARとは

タイトル通り今回はWARに絞ります。

WARは正式名称(Wins Above Replacement)といいます。

打撃、走塁、守備、投球を総合的に評価して選手の貢献度を表す指標であり、詳しくは下記のデルタ様の記事に詳しく書かれています。

1point02.jp

ざっくり言うと

A選手:めちゃくちゃ打つけど守備は普通の一塁手

トータルの貢献度は2.0

(チームの勝利数を代替可能な選手を一塁手で使った場合と比べると2勝分底上げしている)

B選手:打撃は苦手だが守備が抜群にうまい遊撃手。

トータルの貢献度は3.0

(チームの勝利数を代替可能な選手を遊撃手で使った場合と比べると3勝分底上げしている)

 

みたいな感じで、選手の総合評価を数値で表すものです。

セイバーメトリクスに造詣のある方にはおなじみの指標ですが、一般的な野球ファンの方々にとってはあまり耳馴染みのない言葉ではないでしょうか。

 

このWARは簡単に言えば高ければ高いほどその選手の勝利貢献度が大きく、低ければ低いほど代替可能な選手と入れ替えたほうがチームが好転する可能性が高い。

というものです。

 

論争ではヤクルトのオスナ選手について、このWARの値がマイナスであることについて触れていました。

WARがマイナスというのは、端的に言うと「代替可能な選手と入れ替えたほうがチームの勝ちが増える」というもので、あまり正しい言い方ではないですが「チームの勝利に貢献していない」選手となってしまいます。

 

実際オスナ選手のWARはマイナスで、下記のぼーのさんのブログでもマイナス値(9/22更新なため最新データではありませんが、おそらく現時点でもマイナスでしょう。)をたたき出しています。

bo-no05.hatenadiary.org

 

とはいえそれを聞いて「じゃあオスナ選手を切るべきか」といわれると、ヤクルトファンではない私にはわかりませんが、この論争が出ていた時のヤクルトファンの方々の反応を見る限り、ヤクルトファンにとってはNOという結論なのだと思います。

 

オスナ選手に限らず、WARをつぶさに見ていくと良くも悪くもファンとしての感覚とは乖離した数値が出ていることは往々にしてあります。

「え?この選手こんな貢献度高い?」とか

逆に「こんな貢献度低いとは思わないんだけど…」とか

このWARという指標について個人的に思ったことについて、書いてみたいと思います。

 

■代替可能な選手(リプレイスメントレベル)って?

WARの基本的な考え方である「代替可能な選手との比較」ですが、この代替可能な選手というのがあまりに分かりにくくて感覚と合わない。

というのは気になっています。

私個人としてはWARのような指標は好きなのですが、ただどのくらいのレベルの選手を指して「代替可能」と言っているのかわからないんですよね。

皆さんの贔屓球団で、パッと1軍に上げてこられてチームの勝ちの邪魔をしない程度の活躍が出来る2軍選手ってどれだけいますかね?

いたとしても育成中でまだ2軍でやることの残っている若手選手を無理やり引っ張り出すとかそういう感じになりませんか?

選手プールが非常に大きなMLBでは「代替可能な選手」という考え方もしっくりくるかもしれませんが、パイの小さなNPBの場合ですと、「代替可能な選手」と呼ばれるWAR0.0レベルの選手はすでに1軍で欠かせない戦力だったりしています。

勿論そのレベルの選手がずっと主力、準主力として君臨していること自体がいいことかと言うとそうではありません。

ただ、日本の野球ファンの感覚としてそもそものリプレイスメントレベルがちょっとイメージしづらいのは否めないなと個人的には思います。

 

■ポジション補正が分からない

WARにはポジション補正があります。

出典:

WAR (野球) - Wikipedia

 

各サイトによって比重は異なりますが、捕手や遊撃手は基本的に重労働であり、一定の守備を保つのが難しいため、そのポジションで出場しているだけである程度プラスの傾斜が付きます。

逆に守らなくてもいい指名打者や守りの負担が少ない一塁手左翼手などはマイナスの傾斜が付きます。

まず思ったのが「いや各サイト全然違うやんけ」ってことなんですよね。

MLBのデータサイトだと三塁手の守備位置補正は大体中堅手と大きく乖離がないか同じとされていますが、NPBのデータサイトは三塁手の補正は中堅手より大きく下がっています。

また、両翼もMLBでは差がないのに対し、NPBではライトの補正がレフトより明らかに高いです。

確かに、まったく同じ打撃成績を残した2人の選手がいて片方が一塁を平均レベルで守れる、片方が捕手を平均レベルで守れるとするとそりゃチームの貢献度としては捕手のほうが高くなるのは必然です。

捕手の重労働や補充のしにくさを考えれば当たり前です。

各ポジションごとに傾斜があるのは当然ですし、個人的にはbaseball Referenceの値が一番しっくりきますが、このあたりの感覚も分からないと思う人がいるのはそんなに不思議なことではないのかな、と思います。

私は「まぁこんな感じの傾斜はあるだろうな。傾斜の根拠はわからんけどそんなもんかな。」と納得してしまうタイプですが、「なんでこんな傾斜なんだ」と疑問に思う方も当然いるでしょう。

 

■稼働とWAR

WARは総合値であるため、試合に出ていれば出ているほど値は増えやすくなります。*1

この稼働っていうのが結構馬鹿にできなくて、プロの143試合はめちゃくちゃ身体的な負担も大きく、規定打席規定投球回に到達できる選手というのはごくごく限られた身体の強さと野球の実力を兼ね備えた人たちにしか成しえないことです。

短期間でハねてその後コンディション不良でいなくなる選手と、1年間地味ながらもコツコツ試合に出続ける選手と比較すると後者のほうが価値が高いです。

例えば短期間だけ活躍する選手が何人もいて使い回してWARを最大化させるというのなら話は別ですが私は聞いたことはありません。*2

規定打席に立ってWARが1.0の選手と、50試合で200打席ほど立ってWARが2.0の選手なら前者のほうがチームとしては計算が立てやすいですし、なにより後者のような選手だとその選手が離脱した時の穴埋めや代わりに出る選手の事を考えると使い勝手が悪いため、ある程度の稼働が出来る選手のほうが好ましいと思っています。*3

 

■WARが低い選手は価値がないのか

ごちゃごちゃと言ってきましたが、結局行きつくのはここです。

WARが高い選手は価値があるというのは当然として、WARが低い選手は価値がないのか。

もっと言うとWARが低い選手は1軍でプレーさせるべきではないのか、ということです。

 

結論から言うと

一概にそうとも言えない。

と思います。

 

ここで簡単な例え話をします。

 

とある球団にはWARが-1.0のX選手が遊撃手のレギュラーとしてプレーしています。

普通に考えたらX選手をレギュラーとして使うよりほかの選手を使うべきという結論になりますが、当該球団の遊撃手はX選手以外の質が更に低く、ほかの選手を使った場合にたたき出すWARが-1.0どころじゃ済まない可能性もあります。

更には育成過程の若手遊撃手を無理やり起用して選手としての芽を摘みかねないリスクだってあります。

前者はまだ目先の勝利が消えるだけですが、後者は最悪です。

本来ならWAR4.0とか5.0を稼げるだけのポテンシャルがあった若手選手を中途半端に1軍に呼びつけたことで選手として成長しきれずに将来稼げるWARが目減りしてしまう、すなわち将来の勝ちが減る可能性もあります。

これは投手でも同じで、例えばWAR0.0の先発投手なんかは「何の価値があるんだ」と言われてしまいかねませんが、WAR0.0の先発投手がイニングを食ってくれるおかげで、もっとWARの低い選手がイニングを消費してチームの勝ちを目減りさせたり、育成過程の若手選手に過負荷をかけて故障リスクをいたずらに上げずに済むという可能性は十分に考えられます。

 

つまり「WARで見れば決して優秀なスタッツではないが、自球団が取れる中ではベストな選択」となることは往々にしてあります。

 

ここで最初の論争の話に立ち返りますが、ヤクルトにおいてオスナ選手を一塁で起用するというのは他の選択肢と比較すれば一番ベストな選択である可能性は十分あると思っています。*4

 

ただ、WARが低い選手が長く主力を張るチームが「健全な編成」をしているとは思わないので、選手獲得の戦略においては無視できないということは念頭に入れてもいいのではないか、と思います。

WARが低い主力選手の存在意義は「現在のチームを大崩壊させないために最低限の傷で済ませる」ことであり、そういう観点から見ると決して不要な存在ではありませんが、あまり頼りすぎるべきではないというのが個人的な考えです。

 

■じゃあ結局WARって何なの

結論から言うと「チームのバロメータ」です。

首脳陣も当然見るべき数字だとは思いますが、むしろもっとちゃんとWARを見るべきなのは編成担当者だと考えます。

いわゆる「健康診断の数字」みたいなもんで、例えば肝臓が悪いけど血圧は問題ない、みたいな数字が出てくると思いますがそうなるとじゃあ普通の人はお酒を減らすとか食べ過ぎないとかそんな感じで対処しますよね。

それと一緒でWARが低いポジションに関してはそれはつまり今チームにおいて潜在的なリスクになっている箇所なので、ドラフトなり補強で対応しないと今は耐えてても将来泣き所になりますよ、っていうことを示しているものなのかなと感じます。

 

長々とお付き合いいただきありがとうございました。

*1:逆に言うとマイナスを出してしまう選手は出れば出るだけ値が減っていきます。

*2:こういう事例があれば逆に教えてほしいです。

*3:投手だとなおさら顕著で、規定投げてくれる平凡な投手と規定投げられない好投手なら数字上は後者のほうがよく見えても、チームへの貢献度は言うほど後者のほうが上か?と思っています。

*4:ただ、年齢的に二塁を守るのが難しくなってきた山田哲人選手の一塁コンバートという考え方もあるとは思いますし、ヤクルトの事情には明るくないですが一塁を守れてオスナ選手くらいのスタッツを残せる選手が他にいるけど使わない、という事であればそれは不勉強で申し訳ありませんという事しかできません。