アンジェ・ポステコグルーという監督

こんにちは

私です。

 

前々から話は上がっていましたが、ついに実現したということで一本記事を書きたいと思い筆を執りました。

https://www.tottenhamhotspur.com/news/2023/june/club-announcement-appointment-of-ange-postecoglou-as-head-coach/

 

私は全くもってトッテナムの事情を存じ上げません。

ただ2018年~2021年6月まで3年半もの間ポステコグルーが作り、ポステコグルーが指揮するチームの試合を見てきました。

「ポステコグルーってどんな特徴があるの?」とか「トッテナムはどうなるの?」ということに関して憶測と自分が見てきたものから引っ張り上げて書いてみようと思います。*1

 

・信念を曲げない頑固親父

個人的に私が一番評価しているポステコグルーの長所はここです。

彼の中で「こうしたい」というサッカーの想いがあって、それを実現することに全力を注ぎます。

スカッドの質に問題があったとしても彼には関係ありません。*2

プレミアリーグ愛好家に伝わりやすい例を出しますと、右からアーノルド、マグワイア、ダイアー、カンセロで超ハイラインサッカーやってたようなもんです。

「やれるかやれないかじゃない。やるんだよ。」と真顔で言ってきます。

ただ、巷には自分の信念を曲げてスカッドに合わせた戦い方で勝ち点をセコセコ拾おうとしてその結果回り回って自分の首を絞めてしまう監督*3が大勢いる中で、この覚悟ガンギマリの姿勢は中々できることじゃないでしょう。

よく監督が勝ち点欲しさにブレるブレないだの言いますけど、この人には「ブレる」という言葉はありません。多分産まれたときにお母様のお腹の中に置いてきたんだと思います。

そして、やりたいサッカーの「輪郭」自体はすぐに見えてきます。

 

・威厳あるモチベーター

良くも悪くも賛否が分かれておかしくないサッカーをしている中で、マリノスでは不満分子が表に出ることもなく、ファンサポーターからも大喝采で送り出されましたし、マリノスのようなJクラブとは比にならない名門セルティックでも高く支持されているように見受けられます。

よく言われるのが、

「ポステコグルー自身が細かく選手に口を出さず、練習はコーチに仕切りを任せてじっと見守っているだけ。」

「選手と会話をすることはほとんどなく、一線を引いて接している。」

というところで監督としての威厳を重視したマネジメントを行っています。

しかしながら、そのマネジメントがうまくいき*4モチベーターとして選手をその気にさせる力を発揮しています。

ただこちらに関しては一介のJクラブでしかないマリノスや、名門といっても井の中の蛙感があるセルティックとは違って、トッテナムの選手たちも同じように接して同じように動かすことができるかは分かりません

 

・アタッキングフットボール

よく言われる「ハイラインハイプレスのアタッキングフットボール」ですが、プレミアリーグ愛好家に分かりやすく言うなら、テン・ハグ監督が率いる今期のマンチェスター・ユナイテッドにかなり近しいサッカーだと認識していただけると良いかと思います。

あれのさらにDFラインが高くてボール保持時の振る舞いがオープンなサッカー考えていただければなんとなくイメージがつくのではないかと思います。

ただ、やりたいサッカーに必要な人材を買い揃えられなかったら毎試合明確なボトルネックが足を引っ張るだけになりかねないリスクはあります。

また、配置が多少変でも修正しないでそのまま選手に無理させて頑張らせる人なので、大味で雑味の強いテン・ハグサッカーになるのが一番想像しやすいです。

「個人の質」にかかる要素が極めて大きいので、質で上回れるかどうかで試合の趨勢は決まります

もし質で上回れなければ基本的に何も起こせないと思っていただけるといいかと思います。

 

・男は黙って

インタビューでは何も話さないということはありませんが、芯を食ったことは話しません。

それは特段頓珍漢なことをいうわけではなく、当たり障りのないことを言うタイプです。

当然ですがメディアの前で何でもかんでもぶちまける監督ばかりではありません。*5

それでも何かヒントになるものを探したいと思うサポーターは多いですが、ポステコグルーはその辺に関しては期待する方が間違っているレベルの城壁です。

また、選手個人を取り上げた批判は見たことありません。

退任直前のコンテみたいなああいう暴れっぷりも恐らく見られることはないでしょう。

 

・補強、編成

マリノスセルティックと彼の在籍していた直近2クラブはかなりポステコグルーの意向を聞いて補強してくれるクラブでした。

そこまで意向を聞いて補強をしても、生で見て合わなければ使わないしそのまま放出することも多々あります*6

翻ってトッテナムはいかがでしょうか。

自分が調べた範囲だとトッテナムというかレヴィ会長はあまり監督にその権限を与えてくれなさそうな印象があります。

ポステコグルーは「使わない」と決めた選手はその選手の立ち位置や人気などを良くも悪くも全く忖度することなく使わない傾向にあるため、フロント主導で取ってきた選手を使わないということも全然ありうると思いますし、そうなった時にフロントとの関係がこじれるみたいなリスクは考えられるかなと思います。

また、マリノス時代は「左ウイング」の最適解探しに多大な工数とリソースを割いたことが印象的です。*7

自身のサッカーに必要な人材、要件を理解しきれていないがゆえに補強がややガチャ風味になってしまう側面はありましたが、トッテナムではそもそもそれ以前の問題になりそうな恐れはあります。

 

・負荷分散?なにそれ美味しいの?

23-24シーズンのトッテナムは欧州の大会に出場することがないため、参加するコンペティションはリーグ戦、カラバオカップFAカップの3つのみとなります。

正直そのくらいの負荷なら何とかなりそうな気はしますが、過密日程になった時の戦力運用には難があります。

マリノスでは特に2020年、未曽有の過密日程*8でしたが、それに自ら拍車をかけるかのような選手運用でチームは蝕まれていきました。

セルティックでも古橋選手をいかなるコンペティションでも引っ張りすぎて21-22シーズンは後半戦ほぼ棒に振ることになりました。

ポステコグルーは「信頼している選手をゴリゴリに酷使する」傾向があります。

例えばカラバオ杯で下部カテゴリ相手に2点リードしている状態でも主力を下げない、みたいなことは普通にあると思います。

そこは長いシーズンを見たときにちょっと不安要素になりえる部分かなと感じます。

 

・仕込みが出来れば采配は二の次

試合中の采配、特に良くない点や相手にやられてしまっている箇所の修正には期待できません。

相手の罠、対策にズブズブ嵌っていきますし、それを解決することは夢物語です。

選手の成長を促すためにあえて言わないなんて言われていますが、個人的にはもっとシンプルで「そこを問題と思っていないし、自身が動くことによって選手にバグを生じさせたくない」というだけなんじゃないかと思います。

見事な修正、交代策で捲った!みたいな試合はほぼないです。

事前のプラン通りに押し切れた!という試合は多いです。

 

マッドサイエンティスト

監督が「ちょっと○○なやり方思いついたんだけどやってみたい」と思うことはあるかと思います

マンチェスター・シティペップ・グアルディオラはそれを大舞台で披露して爆死して一部から「奇策ハゲ」なんて揶揄されることもあります。

ポステコグルーもそれをたまにやります。

マリノス界隈では「ポステコラボ」と呼んでいましたが、明らかに実験色の強い選手起用を平然とリーグ戦でぶちかましてきます。

そして困ったことに大体実験は大失敗します。

でもやめません、たまにやります。

現地に行く場合は別として、ラボ回はスタメンである程度察することができるのでとっとと寝てリアタイしないのが吉でしょう。健康のために。

 

・リーグのレベル

森保監督ではありませんが、やはりここはどうしても引っかかるポイントでしょう。

どちらかというと単純にリーグのレベルの高い、低いより、全12チームある中でセルティックとレンジャーズがほぼ同格、ちょっとセルティック優勢といったところで、残り10チームは圧倒的にセルティックの格下になる格差が気になります。

プレミアリーグのような群雄割拠ではないため、比較的勝ちやすい、結果を出しやすい環境とはいえるでしょう。

実際ポステコグルーが就任する前にレンジャーズを無敗優勝に導いたスティーブン・ジェラードアストン・ヴィラの監督に就任しましたが結果を残せず解任の憂き目にあいました。*9

レベルそのものより、あまりにも2強が頭抜けすぎている特殊な環境の中で結果を出したことが他チームでの成功を約束しないことは事実でしょう。

また我が強く、プライドの高い選手たちをまとめ上げるための実績という意味でもSPLでの数字は物足りないといわれても仕方ないでしょう。

そこはポステコグルーにとってはこれまでにない挑戦となります。

 

・ポステコグルーが見せるもの

トッテナムが何を目指すのか、それは私にはわかりません。

タイトルを取るというのは決して簡単なハードルではないですし、ポステコグルーがそれを達成する可能性は低いでしょう。

また、魅力的な攻撃サッカー、という観点から見てもマンチェスター・シティマンチェスター・ユナイテッドアーセナルあたりと比べて質も完成度も高くなることはないでしょう。

ただ、彼には強烈な信念があります。

「俺たちは前のめりに攻撃し続ける。」

この強い意志をチームに伝播させていくことで、トッテナムアイデンティティを作ることは期待できるかもしれません。

 

・ポステコグルー監督を今でも敬愛する皆様へ

これは主にマリノスサポーターに向けて言っています。

やはり我々が忘れてはいけないのが2015年から2017年までの3年間、苦しくて地味でしんどい仕事を文句ひとつ言わず遂行してくれたエリク・モンバエルツの存在が大きかったことです。

彼が大まかな土壌を作ってくれました。*10

そんなモンバエルツの後だったということ、2018年夏以降の補強でスタイルに合致した主力を何人も安価で獲得できたこと、他チームの流れを含めて風が吹いていたこと、運も引き寄せたこと、それらが連なって今があります。

他クラブもただ「我慢」すればいいわけではありません。我慢にだって限度はあります。

トッテナムにはトッテナムの事情があります。

外から見ていてツッコミどころはあるかもしれませんが、そういうのもクラブによって様々あります。

ゆめゆめ上から目線で語らぬよう切に願います。

 

・新しいチームに思いを巡らせる皆様へ

こちらはトッテナムサポーターに向けてのコメントです。

難しいでしょうが一旦色眼鏡を外してフラットにみてみませんか?

「SPLから来た監督」であったり、「サッカー先進国とは言えないオーストラリア人指導者」といったことは確かに気になると思います。

ですがそれは何の意味もなさないノイズです。

まずは「ポステコグルーが何をしたいのか」を見てみてください。

そのうえで評論してほしいですし、そこで「もう終わりだよこの監督」と思われるなら私はそれは立派な意見だと思います。

 

・最後に

「ポステコグルーは名将か?」と言われると正直名将じゃないと私は思います。

ただ、名将じゃなくても強烈な個性を持っている人物なのは確かで、お陰様で私自身もこんな記事を書く羽目になりました。

願わくばポステコグルーがプレミアリーグを盛り上げてくれればいいなと感じます。

 

本日もお読みいただきありがとうございました。

 

*1:一応セルティックでの試合も気が向いたときにたまにチラ見してましたが、あれは参考になりません。あまりに戦力差がありすぎますし、あれならセルティックの監督がランパードでも優勝するでしょう。

*2:よくJ界隈で言われる2018年のマリノスですが、これもほぼスカッドの問題だと思っていて、CBに負荷のかかるハイラインを当時40歳でその年に引退する中澤、当時35歳で翌年引退する栗原、足の遅いデゲネク、高卒新人の生駒と西山という馬鹿みたいなスカッドで断行したのがほぼ原因です。今考えてもこれでハイラインやったのは頭おかしかったと思います。

*3:特にJリーグの欧州系監督って大体これ。

*4:おそらくコーチとの連携もちゃんと取っているのでしょう。

*5:そんな監督は横浜DeNAベイスターズの初代監督中畑清くらいのものでしょう。

*6:ガンバサポや一部のJ2サポは首がもげるほど頷いていると思います

*7:本筋ではないので長く語りませんが、端的に言うと2020年~退任まで山ほど補強をして入れ替えを繰り返したうえで左ウイングの適任者を最後まで見つけられなかったということがありました。

*8:2月下旬に開幕しましたが直後にコロナで延期、6月末からリーグ再開して12月中旬までぶっ通しでリーグ33試合+カップ戦を戦いました。

*9:その後就任した中堅クラブ限定の名将ウナイ・エメリがヴィラを一気に引き上げてなんと7位のECL圏まで連れていくことになりました。

*10:個人的にはピッチ内の戦術というより「選手は監督に従うもの、我々はそういうクラブ」という強烈なアイデンティティの構築が一番大きいことだと思います。主力が当たり前にように監督人事に口を出す、反旗を翻すといった歌舞伎町に落ちているゲボ以下の所業を許さないチームになれたのは大きいことです。